FAMILY'S INTERVIEW 武雄で暮らす人々

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「本当は内緒にしておきたい」武雄の山に響く、横笛の音色と探求の日々

2026.03.01

佐賀県武雄市。歴史ある温泉街と豊かな緑に囲まれたこの地に、一人の横笛奏者が暮らしています。望月美都輔(もちづき みずほ)さん。

東京藝術大学で研鑽を積み、プロとして華やかな舞台に立ってきた彼女が、なぜ武雄を選び、ここで何を紡ごうとしているのか。伝統芸能という「型」の中に宿る、自由でストイックな探求心、そしてこの街で見つけた「豊かな日常」についてお話を伺いました。

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1歳半で袖を通した浴衣。日常にあった「和」の世界

「お腹の中にいる時から、お稽古の音を聞いて育ったみたいです。」

そう笑う望月さんのルーツは、母と曽祖母が嗜んでいた日本舞踊にあります。1歳半で自らも踊りを始め、毎週着物に袖を通す生活は、彼女にとって特別なことではなく「日常」の一部でした。

しかし、次第に興味は踊りそのものから、その背後で流れる「音」へと移っていきます。

「小学生の時、地域の和太鼓グループに所属していて、お祭りの山車の上でお囃子に合わせて笛を吹く同世代の姿に憧れを抱きました。その後、中学生の時に運命的な出会いがあったんです。ワークショップで演奏されていた今の師匠の姿が、とにかくキラキラと輝いて見えて。『私もあんな風になりたい』。その一心で、中学2年生から横笛の世界へ飛び込みました。」

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演奏に芽生えた責任、藝大での濃密な時間

中学で横笛の世界へ飛び込んだ後、高校時代は合唱部の活動が盛んな学校へ進学し、全国大会や関東大会に出場するほど毎日練習に明け暮れていました。その一方で、「東京藝術大学の邦楽科へ進む」という明確な目標を持ち、部活と並行して受験のための笛や三味線のお稽古にも通う日々を送っていたと言います。

努力の末、望月さんは国内最高峰の芸術大学、東京藝術大学音楽学部邦楽科へと進みます。1学年わずか25名。そこは、単なる学び舎ではなく、プロとしての洗練を求められる特殊な環境でした。

「入学した瞬間から、もうプロとしてのキャリアが始まっているような感覚でした。1年生の時から現場に呼んでいただき、先生や先輩方と同じ舞台に立つ。技術はもちろん、立ち振る舞いや礼儀、伝統を繋ぐ責任感を肌で感じる毎日でした。」

大学院では、本来なら難しい「流派の垣根」を越えた学びを深め、技術を研鑽。修了後はフリーランスとして活動を開始。印象的だった仕事としては松尾スズキ氏主宰の劇団「大人計画 [※1]」への出演や、豪華客船「飛鳥II」での演奏など。古典芸能の継承に加えポピュラー音楽とのコラボや舞台出演、楽曲制作、近年では横笛とボーカルを両立したパフォーマンスをするなどジャンルに縛られない多彩な活動を展開してきました。

[※1] 2026年3月1日。[有限会社大人計画]は、[有限会社さておき]に社名変更

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武雄という土地が教えてくれた「本当は内緒にしておきたい」豊かさ

そんな望月さんが武雄に移住したのは、コロナ禍に入る少し前のこと。きっかけは結婚でした。ご主人が武雄市の武内町にある円楽寺(えんらくじ)の住職を務めていたことから、自然な流れでこの地へ。

温泉があり、お米やお茶、お肉も野菜も魚も美味しくて、福岡や長崎へのアクセスも良い。そして少し車を走らせれば、力強いエネルギーを持つ焼き物の窯元が点在しています。

「日常のすぐそばにそうした文化的な豊かさがある。そんな贅沢さを日々感じています。唯一の悩みは、車移動ばかりで運動不足になることくらいですね(笑)。」

ゼロから文化を耕す。地方だからこそ得られる「ご縁」と「手応え」

武雄に移住してからの望月さんは、自ら市役所などへ足を運び、「何かイベントごとはないですか?」と尋ねることから演奏の機会を広げていきました。

「活動拠点がどこであっても、ご縁をいただいた先で演奏を提供し、信頼を得て次のお仕事に繋げていくことは共通しています。東京に比べ、地方では邦楽の演奏会の数が少ない分、自分から動いて文化を耕していかなければ何も始まりません。そうやって自分たちで文化を豊かにしていくプロセス自体が、今後の活動の大きな糧になると感じています。」

また、地方ならではの魅力も実感していると言います。

「馴染みがないからこそ、新しいものに対する吸収力や食いつきが素晴らしいんです。特に武雄の子どもたちは純粋で、素直に喜んで反応してくれます。そうした姿を見るのも嬉しいですね。」

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「伝える」ことよりも、ただ「音」を突き詰めていきたい

プロの奏者として、望月さんが大切にしているのは、意外にも「何かを伝えよう」とすることではないと言います。

「私が何か伝えたいことがあるわけではないんです。お客様が求めているものもそれぞれ違うと思うので、それに合わせるというよりかは、自分の中で『音』や『表現』をずっと突き詰めていきたい方なんですね。そうして突き詰めたものを表現して、聞いてくださった方にプラスの感想をいただいたり、喜んでもらえたりするのが一番嬉しいんです。」

その純粋でストイックな探求の先に見据えているのは、「佐賀・武雄からの世界発信」です。昨今、インバウンド向けにわかりやすくアレンジされた和のエンターテインメントの需要も増えていますが、望月さんの根底には「まずは日本の人に、日本の伝統をもっと知ってもらいたい」という強い思いがあります。その軸をぶらすことなく、自らが極めた日本の音色を、ゆくゆくはこの静謐な武雄の空気とともに世界へと届けていきたいと語ってくれました。

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未来へ繋ぐ「横笛」という選択肢

現在、望月さんは演奏活動と並行して、地元の子どもたちへの指導にも意欲を燃やしています。

「武雄の子どもたちはとても純粋で素直ですが、周りに触れられる環境がないと、将来の選択肢が限られてしまいます。だからこそ、小さいうちに和の音楽をはじめとした色々な選択肢や可能性を与えてあげたいんです。また、私の教室はただ笛が上手くなるためだけの場所ではなく、私自身が小さい頃からお稽古で学んできたような、人との接し方や人間性といった精神面を育む場所にしていきたいと思っています。」

武雄の豊かな自然のなかから、あるいは静かなお寺の本堂から。 望月さんが奏でる横笛の音色は、伝統という重みを軽やかに纏いながら、今日もこの街の日常に溶け込んでいます。

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武雄そしてお結び課について

ー 武雄市ってどんなところ?

食(お米、お茶、肉、野菜、魚)や自然が豊かで、福岡や長崎へのアクセスも良い街。日常のすぐそばに窯元などの文化があり、子どもたちも純粋で素直。「本当は内緒にしておきたい」と思うほど魅力が詰まった場所です。

ー 武雄市のおすすめのスポットは?

  • 武内町内だけでも7箇所ある窯元は、個性豊かな作家さんとの会話を楽しみながら、多種多様な焼き物文化に触れられるスポットです。
  • 秋(11月)の窯開き:黒髪山周辺などの窯元を巡ると、お茶菓子のお振る舞いなども楽しめます。

 

INFORMATION

望月 美都輔(もちづき みずほ)
千葉県出身。東京藝術大学音楽学部邦楽科卒業、同大学院修了。横笛奏者として舞台、コンサート、イベントなど幅広く活動。現在は佐賀県武雄市を拠点に、演奏活動のほか後進の育成にも力を注いでいる。令和7年「第53回佐賀県芸術文化奨励賞」を受賞するなど、受賞歴多数。
instagram @mizkalavinka1018
Web site https://www.mochizukimizho.com/

 

編集後記

伝統を背負う重圧を微塵も感じさせない、望月さんの軽やかで澄んだ佇まいが印象的でした。お話を伺い、武雄の豊かな自然や食、そして人の温かさが、彼女のストイックな探求心を優しく包み込んでいるように感じます。この地から響く横笛の音色が、次世代の子どもたちへ、そして世界へどう広がっていくのか。これからの活動が楽しみでなりません。

取材・撮影:落水恒介